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オタク、婚活をする

一介のオタクが婚活に挑戦したので所感と得られた知見についてまとめる。タイトルに付けた「オタク」という言葉の指す範囲や程度は様々だが、ここでは「萌え絵や深夜アニメ好きの男性」(つまり、私です)を指す言葉として話をすすめる。

始めるまでが大変

婚活はまず始めるまでが大変である。多額のお金がかかるだとか、様々な証明書類が必要だとかそれは確かにそうだが、そこではない。最も重いのは自分は婚活をやる人間になったと認めることだ。これまで”オタク”的に生きてきた人ほど心理的ハードルが高いだろう。

程度はあれどオタクの自覚がある人は「オタクたるもの、人間ではなく作品や技術に夢中になり、そういうものに人生を捧げるべきだ」と考える人が多いのではないだろうか。そういう考えを持っていると、婚活を始めるということはオタク趣味にすべてを捧げる気概もなく、寂しさや将来への不安に負けたと認めることを意味する。よって自分は”オタク”失格だと敗北感を味わうかもしれない。実際はそんなゼロイチではないと思うのだが、不安が大きくなるとそう極端に考えてしまう。しかし、それでもやると決断をしないとスタートラインにすら立てない。

次にコミュニティの問題がある。 いわゆる「オタク」的コミュニティというのは、身内の結束を固めるためか人付き合いを重視したり交際相手がいる人たちを「あちら側」扱いして遠ざける節がある。想定規範から外れた行動をした人は「裏切り者」扱いされることもある。そんなコミュニティに属していながら「婚活、始めます」と素直に言えるだろうか。

さらに、未知への恐怖という大きな問題も立ち塞がる。婚活をやって失敗したときのことを考えると怖くて踏み出したくない、勝手がわからなさすぎて怖いといった恐怖だ。今までの人生をオタクとして過ごしてきたので人付き合いの経験が少ない。服装、清潔感、コミュニケーション力……。不安材料を挙げるとキリがない。

以上3つの問題、悲しいことに自分はほぼすべて当てはまった。そんな三重苦のような状態でなぜ婚活を始める決断に至ったのか。 始まりは、とても信頼を置いている友達から「俺達ももういい歳なんだしさ、結婚とか考えたほうがいいんだろうな…」という言葉が出てきてグサッときたことだった。 今の生活は十分に楽しいし寂しいと感じたこともなかった。なのになぜ?自問自答を繰り返し少しずつ理由がわかってきた。

(異性との交際なんて)(結婚なんて)どうせ自分には向いてない、と決めつける態度に危うさを感じたのである。 自分には関係ない世界のことだから……と遠ざけ続けて10年、20年と経った後に本当に後悔しないと言い切れるか?という不安に襲われる。それが心に刺さった何かの正体だった。 食わず嫌いはしない主義、つまり一切触れずに文句を言うのはよくないという信条を持っていたのも強く影響している。もし最終的に「本当に向いてないからやめる」になったとしても一度は挑戦したという事実があれば納得もいくだろうと、自分に言い聞かせて気持ちを後押しした。もし失敗したら盛大にブログのネタにしてやろう、と少し邪な気持ちも出てきて(お、面白い、や、やってやろうじゃん……)と震えながらも決断に至った。

オタク結婚相談所

まず、婚活ってどういう流れでどういう雰囲気で、どういうことをやって、どういう人と出会うの?といったよくありそうな疑問に関してはネット上にたくさん情報がある。業者の宣伝ではなく、体験者の生の声が見たいのであればはてな匿名ダイアリーで「婚活」のついた人気記事を見てみると雰囲気をつかみやすい。

本文 「婚活 anond」 を検索 - はてなブックマーク

そういった話は↑で十分見られるので、この記事ではオタク観点でどうだったかに絞って書く。

ひとくちに婚活といってもアプローチは色々あるが、その中で選択したのは結婚相談所だった。相談所にも色々あるが、時々Twitterで話題になるオタク向けの相談所に登録した。オタクなので。

オタク向け相談所と聞くとそこに登録したオタク同士でマッチングするのかと思われがちだが、実は違う。 オタク相談所は巨大な相談所連盟の一員でしかなくて、マッチング対象はその連盟に登録している会員すべてである。よって、他の相談所の人の方が母数としては普通に多い環境だ。そうなるとオタク相談所から受ける指南はごく一般的な婚活攻略法となり、オタク同士で交際を目指す!という形ではない。え!?じゃあオタク相談所の存在意義は一体?と不思議に思うかもしれないので一応フォローもしておくと、自作同人誌を委託すると入会金が割引されるという特典があったり、毎月ごとに同じオタク相談所の会員を紹介してくれる制度がある。また、担当カウンセラーがある程度オタク文化のバックグラウンドを持つ人ばかりなのでオタク趣味を持つ人の婚活について過去の事例などを聞けたり、相談ができたりもする。

このように色々オタク相談所ならではの特典はあるのだが、やはり入ったら基本的には”一般的な”婚活のルールで動かざるを得なくなることは覚悟しなければならない。相談所側がオタク趣味への理解が深くても、出会う相手までそうとは限らないからだ。これも一応フォローしておくと、オタク相談所以外にも(隠れ?)オタク趣味の人はいる。なので異なる相談所の人は全員オタク文化に理解がない……というわけではない。

オタク趣味は不利にはたらくのか

婚活についてWebで色々調べるとよく出てくるのが「スペック」という単語だ。 年収、身長、学歴、顔の良さ等ぱっと見で判断しやすい部分のことを指す。婚活の第一段階はまず「お見合い」なのだが、その最初のお見合いを成立させるにはスペックが高いほど有利とされている。 が、具体的にどういうスペックだとどういう相手が望めて……という話はWeb検索したら大量に出てくるので気になる人は各自調べてもらうとして、オタク趣味がそういったスペックに影響を与えるのか考えた。雑に言ってしまうとオタク趣味というだけで極端にマイナス評価になることはない印象だ。

『萌える男』に書かれているようなアニメ趣味=犯罪者予備軍扱いされる時代はすでに昔の話で、今どきはアニメ趣味なんてよくある趣味の一つといった扱いだからだ。実際プロフィールに「趣味はアニメ(や漫画)です」と書いている人は結構いる。もちろん「エッチなアニメ大好きです!!!」なんて書いたらダメだけど。どうしても話題に挙げられるのは健全な、知名度の高い作品ばかりになりがちではあるが、とにかく「アニメ鑑賞」自体がマイナスになることは今の時代あまりないだろう。(え、それだと結局本当はエッチなアニメが好きとか隠し通さないといけないの…?)と心配になるが仮に交際して良い関係をある程度築いたのであれば「アニメの趣味がキモい」だけで切られることはないと思ってる。まだそこまで深い交際したことはないので推測だが……。でも結婚するならお互いの趣味を共有することより、性格的な一致、話しやすさ、生活に関する価値観の一致のほうがよほど重要だろう。趣味に関してはお互い許容するが干渉はしない程度で留めておくのが良さそう。

交際相手はオタクの方がいい?

オタク趣味を持っていながら婚活をするとしたら、交際相手もオタクの方が良いか?というのは気になる点である。 これは難しい問題だが、個人的に言うなら相手もオタクのほうがいいかは……NOでありYESでもある。

まず、男女のオタクが会ったとしてオタク趣味のジャンルまで一致することは少ない。 男性向け、女性向けと呼ばれる区分があるぐらい、男女でオタク趣味の傾向は異なっている。よって相手もオタクだからといって同じ作品の話で盛り上がれる確率は低い。もし運良く同じジャンルを共有できたとしても同じ作品内による解釈の差異が大きかったらどうだろうか……。真剣なオタクであればあるほど些細な解釈の違いで争いになってしまいそう。

では相手はオタクじゃないほうがいいのか。たとえば「リア充」「陽キャ」と呼ばれる人と交際できるのかというと流石にそれは……となるし、そこまで行くともはや好きなものが違うというより根本的な気質が違ってて話してて疲れそうだ。そう、気質というのが大事だと思っている。同じジャンルを共有するオタク同士である必要はないが、“オタク気質”同士は波長が合いやすいのではないかと。ジャンルは違えどオタク趣味に打ち込んでいるということは、過去に何かそうなったきっかけがあったはずだ。それは運動が苦手だったとか人付き合いでトラブルがあって自分の世界に篭もりたくなっただとか、様々だとは思うが、そういったベースの性格部分は共感しやすいのではないか。そういった観点で考えれば相手もオタクのほうがいいとも言える。これがNOでありYESである所以だ。

じゃあ具体的にどうすればいいのかという話だが、自分はプロフィールがオタク寄りの人を探すが、実際に会ったときは具体的な作品の話は基本しない、という方針でやっている。オタク趣味的な話をするにしてもジャンル問わず共通でわかることを話題にするよう心がけている。お金かかるよねーとか創作あるある話とかそういう……。あとはもう割り切ってオタク趣味会話はやめて、テンプレートのような話題を繰り広げる(旅行、好きな食べ物とか)。ただ自身のプロフィールに「アニメ」を書いてしまうとどうしても「どんなアニメが好きなんですか?」という究極の質問が飛んでくるのでそれに対する答えは事前に用意しておくとよい(が、聞かれてもサラッと答えて次のお題に移すことが多い…)。

結果は?

で、p-honeは婚活をして結果どうなったの?というところですが……、まだ終わってない。 まだ終わってない!現在進行系で婚活をやっている。「教えてやるよ――最強への方程式(メソッド)ってやつをな」と強気に出たかったのだが、そういう情報提供はできない。現時点での考えをそのまま出力したまでである。

ただ、ひとつ重要な気づきを得られた。それは人の温かみだ。 温かみというのは、交際相手の……という意味ではなく、オタク仲間の温かみである。 オタク仲間はみんな婚活のような話は嫌いなのかなと思っていたが、よく話すオタク仲間に聞いてみたら(実は気になってたけど、勝手がわからないから誰かが先に挑戦してくれたらな〜チラッ)って感じだったらしくてむしろ興味深いと言ってくれた。しかし上手く事が運んでマジで結婚しちゃったら、一緒にオタク活動する機会も減りそうで悲しいけどね…。とも同時に言われたが。それはこちらとしてもまったくその通り……。でも変に隠して裏でこそこそ活動したりせず仲間に相談して本当に良かったと思う。いままでオタク人生をやってきたところから急に婚活をすると正直めちゃくちゃしんどいし、覚えることも多すぎる。ひとりでやってたら発狂してたかもしれない。なんでも一人で抱え込まずに仲間に相談したほうがいいよって最近観たなにかのアニメでも言ってた気がする。

平日の昼から「三森すずこのライブいこ!!」とLINE送ってきたあのオタクも、一緒にプリパラのレイトショーを見に行ったあのオタクも、深夜にアズールレーンのHなファンアートを紹介しあったあのオタクも辛いときに長時間相談に乗ってくれた。 「おにぱん!は見たほうがいいですよ」と上映会をしてくれたあのオタクも「初対面の人と話す場合はこういうところに気をつけるといいですね」等とアドバイスをくれた。 ファンタジスタドールの話で夜通し盛り上がったあのフォロワーさんも「服選び悩んでるなら相談乗りますよ」と言って一緒に街に出かけて服選びを手伝ってくれた。そして同人誌を作ってる真っ最中のお絵かき練習会の仲間も応援してくれた。もうそれが本当に嬉しくて、このあと自分が大失敗しても後悔はないなと思えた。与えてもらった分、自分も誰かの力になれたら嬉しいという気持ちもあるので、もし婚活が気になっているがわからなさすぎて(不安で)体験談が聞きたいという人がいれば積極的に相談に乗りたいと思っている。

しかし、Twitterでこういう話はしたくないという最後のプライド(?)があって、それは捨てきれなかった。なので、この話はブログ記事でおしまい。何かの参考になれば幸いです。