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『ゼロ年代の想像力』と10年代のアニメを見る私

『ゼロ年代の想像力』という本をよんだ。 ゼロ年代(2000年代)に流行した創作(漫画・アニメ・ドラマ等)を挙げていき、当時の社会情勢や作者・消費者の考えとの結びつきを解説して、これからの時代の想像力を考える本で、大変おもしろかった。この本で挙げられてる作品をほとんど知らない(知ってても名前だけとか)のだが、あらすじ解説もあるので問題なく読めた。

結構に長い内容だが、具体例を増やして同じことを繰り返し述べて強化していく流れなので要約すると案外シンプルである。

1980年代までのように国家が人生の目的を与えてくれるようなことはなくなった。頑張れば報われる、なんて考えはみんな信じなくなった。90年代以降、世界は不安定で先が読めなくなり、流行の創作にもその影響が出始めた。

しかし、決断主義は思考停止のようなものだ。閉じた世界で信じたいものを信じて快楽を得てそこだけで生きていくのか。そういった決断主義の暴力性を克服できる想像力はないか。そこでこの本の著者はいくつかの作品を挙げる。何気ない日常に豊かな物語を見出す作品や、恋愛・家族に強く依存せず、あいまいでゆるやかな関係を描いていくような物語たちである。こういった作品は決断主義を克服する優れたアプローチであると考えられる。

与えられるもの(家族とか生きる意味だとか)から、自分で選択するものへ……。生きる意味すら自分で探さなくてはいけないこの時代は良く言えばその分自由であるともいえる。閉じこもらずに異なる人とコミュニケーションしていこう!

…という感じである。読んでいくと今までアニメとか見たりして「ストーリーが素晴らしい!」とか言ってたけどなぜ素晴らしいかをこう表現できるのか!と純粋に感心した。ストーリーの良さをメタ視点で捉える?というのかな、こうやって語ると異なる作品をつなげたり対比したりできるのか、と発想力のすごさは見習いたくなった。

ただ、この著者の主張に対してうんうん確かにそうだよなぁ!とうなずけるか、というと、正直ぜんぜんわからない。なぜかってゼロ年代はまだ自分は小学生〜中学生でおもしろFLASHを見て爆笑していた時代なので、流行した作品を例に出されても言ってることはわかるが、肌感はわからない。 萌える男と同様でそういう時代があったんだなぁととりあえず納得するしかできない。そもそも漫画とかアニメのストーリーが社会的背景とそこまでシンクロするのだろうか、と個人的には疑ってる。自分が社会・政治に興味がなさすぎて気づいてないだけかもしれないが。

あとは、最後の結論?的な部分が「閉じこもらずに人とコミュニケーションしよう!」って方向で終わるのは…なんだか安直な自己啓発セミナーを受けたような微妙な気持ちになる。そりゃ明るく社交的に生きていくのが理想かもしれんけどさ…。shadowban.eu の最後の言葉(Twitterなんてやめて外に出て友達を作ろう!的な文)が思い起こされてウッ…結局人生ってそういうこと?ってつまらない気持ちになってしまう。

「空気系」と日常萌えアニメ

ところで自分は大学時代の思い出に書いた通り2010年代にアニメを多く見るようになり、いわゆる日常系や萌えアニメというのにはまっていった。自分が浸かっていたこの2010年代は『ゼロ年代の想像力』の時代からつながった直接的な未来ともいえる。

実はこの本でもいわゆる日常系アニメは登場していて、「空気系」と呼ばれている。『あずまんが大王』や『らき☆すた』なんかはゼロ年代に流行したコンテンツだからだ。そんな「空気系」はこの本ではどのように扱われていたのだろうか?

「空気系」の作品群が描く世界は、現時点では男性ユーザーの「所有」欲が保証される範囲で祝福される日常性でしかない。第二章で論じたように、特定のキャラクターへの承認をメンバーシップの条件とした空間は「誤配」のない再帰的な共同性の中でローカルなナルシシズムが確保される空間であり、「萌え」サプリメントの効率的な摂取のための箱庭にすぎない。

引用元: 宇野 常寛. ゼロ年代の想像力 (Japanese Edition) (p.350). Kindle 版.

お、おう…。手厳しいね。。10年代の日常系アニメにハマっている自分はこの本でいうとまだ外に踏み出せず自分の信じたいものを信じて殻に閉じこもって快楽を得続けている思考停止状態にあたるようだ。

でも真っ向から反論できるかっていうと、できないんだよな。 閉じこもって同じようなジャンルのものを摂取しつづけて一時の安心を得ているってのはその通りでしょう。でも(本書の中でも言われているが)人間ってのは全員そんなに強い心を持ってるわけではないので、閉じた世界に逃避して人生をやり過ごすってのもひとつの手なんじゃないかね…。

とまぁこのように全体的にネガティブな雰囲気になってしまったけど、普段触れているコンテンツに対して(おもしろ〜w)(かわい^〜w)といった閉じた安全な世界で満足するのではなく、このように外部からの鋭い(?)意見も見て頭の体操をするってのは楽しいものです。