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『誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち』感想

誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち (早川書房) | スティーヴン ウィット, 関 美和 | 音楽 | Kindleストア | Amazon

この本は次の3つのお話が並行して展開される。

一見あまりつながりのなさそうなこの3つの話がつながっていく。 個人的にはインターネットのアングラみたいな世界が好きなので3つめの海賊版ネットワークの話が一番おもしろかった。

技術と政治

優れた技術であってもそれが広く普及するとは限らなくて、企業や政府の都合で妨害されたりする。 暗号解読でも似たような話が出てきた。

MP3の発明でもこういった政治によって思い通りに事が進まないというお話が出てきて「技術の発展にこういうのはつきものなんだなぁ」と興味深かった。さらに面白いのは政治的な理由で普及しないと思いきや、海賊版がきっかけで高速に普及したこと。 インターネットの大衆の力が政治力を覆す、面白すぎる!

海賊版ネットワーク “The Scene”

やはりいちばんおもしろかったのは、海賊版を生み出していた大元の話。 著者の「海賊版ってネットにあふれているけど、これはどこから出たものなんだ?」って疑問から始まっていて 確かにあまり気にしたことなかったが言われてみるとすごく気になるもの。 自分も2000年代にインターネットに浸かっていたので海賊版というのはあちこちで見た覚えがあって、日本のネットだと「割れ」と呼ばれていた。

この本を読んでみると違法アップロードの界隈は「シーン」(“The Scene”)と呼ばれていて、 発売前のCDを工場から持ち出してIRCを通じて組織的にアップロードしていたという話が出てきて驚いた。 海賊版の組織は思った以上に高度に仕組み化されていて、かつバレないように匿名性を高める工夫もされていた。 Napster, BitTorrentといった技術がこういったインターネット犯罪を加速させる展開もたいへん面白い。

海賊版を生み出す側はどういうモチベーションでやっていたのか?海賊版を売ってお金を儲ける話も出てくるがそれはおまけで、 「自分はすごいことをしている」という全能感やコレクション欲のほうが原動力になっているように感じた。 ライバルの海賊版流通組織よりいち早く人気の音楽をアップロードしたい、だとかNFOファイルに「我々がアップロードしたものだ」と証を残していたりする話からそれが伺える。 この本に出てくるグローバーという海賊王も「こんな危ないことはやめる」と言って一度海賊版の世界から遠ざかるつもりが、 なにか物足りなく感じて結局戻ってきてしまい最終的にFBIに捕まった。

すこし昔に日本のまとめサイトで違法動画サイト内の力関係の記事がネタにされていて見て笑っていたが、この本を読むとなるほど違法アップロードする人ってこういう心境だったのかなと思ったりして考えさせられた。