ソシャゲバブルと青春
2010年ごろ、ソーシャルゲームという言葉をよく見るようになった。 最初に意識したのはたしか「モバゲーTOWN」の広告を電車で見かけたときで、人間の指が顔になった変なマスコットキャラクターみたいなのがいた覚えがある。 うわぁなんか広告まみれのサイトみたいなデザインで偏差値低そう…って偏見的な目で見ていた。
デザインもそうだが、当時良く見ていた2ちゃんねるやそのまとめサイトでも「ゲームとして作り込みも薄いのにガチャで金を搾り取る悪徳商売だ」 なんて意見を真に受けて(そうだそうだ、ソシャゲは悪だ!)と信じていた。 当時はMMORPGの世界に入り浸っていたのでゲーム内課金で強くなるというルールは既知だったが、 ゲーム内の世界はよく作り込まれていたし、ガチャがあっても1回100円などだった。 対してソーシャルゲームでは絵がぶつかって戦闘結果が出るだけ、さらにガチャは1回300円〜するというのを見てこんなのがまかり通るのか?この国のゲームは大丈夫なのか? と本気で憂いていた。
しかし、1年ほどたった時、流れが変わってきた。 「アイドルマスターシンデレラガールズ」というゲームが出た。 中高生からニコニコ動画文化圏で育ったので二次元美少女コンテンツの話題は自分の中でもメインストリームだった。 その二次元美少女コンテンツの中でも有名なアイドルマスターがまさかのソーシャルゲームになってしまった、 最初は(あーあ、アイマスもダークサイドに堕ちたのか)とか思っていたのだが、なんと当時仲良しだった友達も何人かこのアイドルマスターシンデレラガールズをプレイし始めていて、(え?あれ?みんなそっちの世界に行ってしまうの…?)と困惑した。
別の方向からもソーシャルゲームの印象を変えてくる流れがあった。 なんだかんだ言ってソーシャルゲーム関連の会社はめちゃくちゃ儲かっているようだった。 そうなってくると、大量のお金を投入して優秀な人を雇ったり、大々的に広告を打ったりできる。 自分は大学入学前あたりから意識的にプログラマーを目指していて、情報収集のためにはてなブックマークというサイトを巡回していたのだが そこで優秀なプログラマーが発表した資料が人気エントリーとして上がってくる。 開いてみるとソーシャルゲーム関連の会社の名前が結構出てくる。 そのあたりからやっている事業はともかく、ソーシャルゲーム会社=優秀なプログラマーが集まっているといった印象になってきた。 この時期から(ソシャゲ会社にいけば優秀なプログラマーになれちゃう感じ…?ちょっと気になるな…)と心が揺らぎはじめる。
大学に入ってからはいわゆるガラケーからスマホへ移り変わった時代で、スマホで遊べるゲームが大流行した。 ガチャでカードを引かせて集金するという部分はほぼ変わっておらず、相変わらずソシャゲ、ソシャゲと呼ばれ続けていた。 当時は「ドラゴン〇〇」のようにドラゴン×何かのゲームといった組み合わせが人気で、大学の友達ともうこれさ、今だったら「ドラゴンじゃんけん」とかでもバカ売れするんじゃね? って話し合ったのを覚えている。そうこうしているうちにスクフェスに出会ってしまい、自分もついにソシャゲ沼に落ちた。直後に艦これにもハマり、(ソシャゲは悪!絶対近寄らないもん!)という考えはいつの間にか消え去っていた。 それどころか、ソシャゲ開発のアルバイトまで始めてさらには新卒でソシャゲの会社に入った。 ソシャゲを叩くどころかソシャゲのおかげで生活できている状態になってしまったのだった。
ソシャゲは儲かるという情報がいったん広まると「とにかく今はソシャゲを作れば儲かるぞ!」と多くの会社のお偉い様が言ったのか すごい勢いで多くのソシャゲがリリースされていた。さながらゴールドラッシュのようである。 そしてソシャゲで成り上がった会社がCMを打ちまくり、ソシャゲ原作のアニメが作られるなんて事例も出てきた。 とりあえずアニメのキャラなどを使って、ゲーム内でカードを集めさせカード同士がバシバシぶつかったりしてプレイヤーランキングがあれば なんでも売れるだろみたいなノリを感じた。競合他社が多くなるほどいかに他社を出し抜いて素早く、上手いこと儲けるかを考えて 無理やりなスケジュールで雑なゲームが出ることも多々あり、その上コンプガチャ規制や消費者庁がどうのみたいな騒ぎもあって 業界は毎日ドッタンバッタン大騒ぎという空気だった。
新卒でソーシャルゲームの会社に入ってみると、作っている側の人々を目の当たりにする。 やべぇ不具合が出た!といって次の日の朝まで残業したり企画が急にひっくり返って企画と開発陣がバトルなんてことは割とよくあった。 とにかく良くも悪くもこの頃は関わっている人みんなに熱気があるように見えた。なので自分はこの時代を振り返るときよく「ソシャゲバブル」と呼んでいる。 会社の景気が良かったのでお給料もやたら高く、オッシャレーなビルにオフィスを構え、インターンシップの学生にまで大盤振る舞いで大金を渡したりしていた。 だからか有名大学を出た人が新卒でソーシャルゲームの会社を目指すなんてことはざらにあって、大学教授が「うちの優秀な学生は〇〇(ソシャゲ会社)に行っててね〜」と 自慢し始めたりするくらいだった。
そこからさらに数年たって今、ソシャゲはどうだろうか。 とにかく雑に大量に作って出すぞ!という流れは見なくなってきた。そうではなく大手の企業が既存の人気キャラクターを使って じっくり作り込んだ大作を出す、という方向にシフトしていってるように見える。 もちろん今でもガチャで多くの収益を得ているゲームは多数あるのだが、2010年〜2015年頃のうおおおなんでもソシャゲにしていけ! 素早く作ってダメだったら閉じろ!とにかく作りまくれ!!!みたいな熱気は感じられなくなった。 だんだんと、ゼロ年代のオンラインゲームのような、またはコンシューマーゲームのような雰囲気に近づいて落ち着いている…ような。
あの頃に戻ってほしいかと自問しても、なんとも言えない。上に書いた通り、良くも悪くも加熱的な状態だったからだ。 ソシャゲバブルで救われた人も多くいただろうし、ひどい目に遭った人も多くいるだろう。 ただただ、当時急速に作られてスッと消えていったソーシャルゲームのキャラクターや音楽、アニメなどを今見返すと 故郷に久しぶりに訪れた時のようなノスタルジックな感情になる。 その時期がちょうど大学生時代というのもあり、ソシャゲは我々の青春なのかもな…と考えていた。