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遅いインターネット、遅いエロ同人ゲーム

『遅いインターネット』を読んだ。 今のSNSを中心としたインターネットは、承認と拡散の容易さにより速すぎる環境となってしまった。 その結果、人々はエコーチェンバーのように見たいものだけを見て快楽に溺れ、だれかに石を投げては「私たちは正しい!」とインスタントな快楽に溺れている。

そこで筆者は、速いインターネットに流されて思考停止するな、情報を咀嚼し自分の頭でよく考えて行動しろと主張する。そのために「遅いインターネット」運動を打ち出した。具体的には、Webマガジンという形式で情報を吟味して再発信するノウハウを読者たちと共有する場をつくるというものだ。

これには大変共感(痛感?)した。ワンクリックで発信できる140文字以内のツイートではなく、このような個人ブログを作っているのも現代の速すぎるインターネットに対する抵抗感を持った自分なりの遅いインターネット運動といえるかもしれない。

しかし、問題提起への共感はあっても、読後の感想としては「で・・・?遅くなったらどうなるの?」だ。 人々がじっくりと、自分の頭で考えられるようになった先に何が待っているのか、何を解決するのかが提示されてない。 あとがきの解説でもその指摘はなされている。

この本の真価は現段階では問えない。むしろ真価は未来の実践に委ねられている。だからこの本の本当の解説は22世紀ぐらいまで待ってほしい。来るべき遅いインターネット時代には、そんな速度でちょうどいいはずだ。

なるほど、じっくり自分の頭で考えることが齎す未来への展望も自分の頭でじっくり考えて発信してくれ、ということだろうか。

ひとつ思いついたのは、「考える過程そのものに充実感がある」という考えだ。 SNSで反射的にいいね♥を押して、同調意見をリツイートし続け、サジェストで現れたエッチなイラストで興奮する、そういった「考えなくていい」インターネットを続けていたら、人生の終着点で(一体この人生は何だったんだろう・・?)と虚しさに襲われる。 そこで私は私なりに色々考えて人生やってきたんだよと言えたら、満ち足りた気持ちで終えられるかもしれない。

特に「サジェストで現れたエッチなイラストで興奮する」部分は私にとって興味深い部分だ。 以前に「コンテンツの供給過多と幸福」という記事を書いたこともある。 タイムラインのRTやpixivのサジェストで流れてくるエッチなイラストだけをインスタントに消費し続けるのを控えて、能動的にキーワードを組み立て、自ら手を動かしていくことが今求められるのではないかと日々感じていた。

たとえばDLsite等で販売されているインディーゲームではそういった「考えさせない」インターネットからの脱却への足がかりとなるような作品に出会える。たとえば私がプレイしたことがあるゲームだと次のようなタイトルだ(なんと今50%OFFらしい)。

【50%OFF】妹!せいかつ ~モノクローム~ [いぬすく] | DLsite 同人 - R18

■ゆっくりと少しづつできることが増えていく 最初はバレないように…でもゆっくりとできることが増えていきます。

 二人でゲームする、休日に出かける、寝込みに悪戯する、一緒にお風呂に入る…  時間をかければやがてエッチもできるようになるでしょう。

このゲーム説明に2回現れる「ゆっくりと」が示すようにこれは「遅い」エロ同人ゲームだ。 起動して即座にエッチなことができるわけでもないし、エッチなシーンが見たければ自分の頭で考えて、パラメータ管理をしなければならない。 これこそ、Twitterのおすすめタブに流れてくるエロいイラストで反射的に興奮するような、「考えさせない」インターネットから離れた遅いインターネットの系譜なのではないか。ここでもう一度『遅いインターネット』の一部を読み返してみる。

発信や主張を禁欲して情報を集めたり考えたりする、物事の簡単に裁断・糾弾できない複雑性に直面することが鍵になってくる。 そのためにまずはゆっくりと読み、じっくりと聞くことが必要だ。ドラマでも政治でもJ-POPでも、できるだけ同じような体温で。そのための訓練の場が「遅いインターネット」である。

ドラマでも政治でもJ-POPでも、そしてエロ同人ゲームでも。遅いインターネット運動は機能する。 欲の解放という目的に対して、じっくり考えるなんて悠長なことはやってられませんが……という意見ももっともだが、 思い出したかのように、時折、ゆっくりと……作品を、情報を咀嚼する活動をしてみると普段とは違った充足感が得られるはずだ。 そしてそこから自分が考えたことを、どこかで聞いたようなミームを繋ぐのではなく、自分の言葉でインターネットに発信してみよう。