p-hone p-hone.info

レンタルサーバー戦国時代

ひと昔前、個人でホームページを作ることが流行っていた時代があった。 個人ホームページを公開するにはサーバーが必要だが、専門家でもない個人ではサーバーを構築する知識もないしお金もかけたくない、そこで基本無料でサーバーを個人に貸し出してくれる レンタルサーバー のサービスが登場した。基本無料の代わりに全ページに広告が挿入されるという形が多かった。

インターネットの楽しさに触れたばかりの当時の自分はやはりこのホームページ作成に強く惹かれてさっそくレンタルサーバーを探しはじめた。 いざ探してみると、覚えきれないほどのレンタルサーバー業者が出てきておどろいた。 「今、最強の無料レンタルサーバーはどこだ!?」とみんな必死になって日々情報収集をしていた。 容量、メール、CGIなどの条件を表にまとめて比較するサイトも現れた。

レンタルサーバーはひとつのサーバーの資源を多くの利用者で分け合って使うので、同居人が少ないほうが快適になる。 だから条件の良いサーバーがあっても情報が広まると人が殺到してすぐに新規受付停止になってしまう。 自分の理想のサーバーを見つけるためには情報戦に参加しなければならない。

自分ははじめにaaa!cafeというサーバーに登録して晴れて個人ホームページを開設した。 しかし情報を集めていくうちに魅力的な条件のレンタルサーバーが見つかっていき、FC2, toktok, 使えるねっと, フリーティケットシアター, infoseek, Yahooジオシティーズ等 気づいたら数多くのレンタルサーバーにアカウントを作っていた。次第にホームページを設置するより面白い仕様のレンタルサーバーを探す方が目的になってきて 特に使う予定もないのにサーバーを契約してファイル置き場にしたりしていた1。 中身がまったく同じサイトを別々のサーバーに設置して「ミラーサイトです!」なんてこともやっていた。個人ホームページにそんなに冗長性いるんかい!って今なら突っ込みたくなるがとにかく多種多様なレンタルサーバーを試していくのが楽しみだった。

多くのレンタルサーバーを渡り歩いていると完璧なものはないという真実を体感する。 このサーバーすごい大容量じゃん!これは強い!って思ったら転送量の制限が厳しかったり、ページを表示するたびにポップアップ広告がでかでかと現れて体験が最悪だったり2。 いやこれはガチのマジで強いぞ…って思ったら招待制だったりと世の中そう甘くはないんだなと小学生ながら気付かされた。

xrea というサーバーはこの時代ずっと人気でいつアクセスしても「現在は受付停止中です」と表示されるのみだった。 時々こそっと枠が開放されては2chに「xreaの開放きたぞ!」的な書き込みがされてすぐ埋まるといった具合だった。 ある日xreaの登録が開放されているのを偶然見つけてうおお!俺の時代がキタ━━━(゚∀゚)━━━!!と速攻で登録した…が、登録したあとに設置するページなど何もなかった。 めったに開放されないレア枠という部分だけに魅力を感じて本来の目的であるはずのホームページの設置なんてどうでもよくなっていたからだ。

xreaは特にディスク容量が大きいわけでもなく、一見なぜ人気なのかよくわからないサーバーだったが よく仕様を見ていくと広告についての仕組みがユニークで面白かった。多くのレンタルサーバーでは広告が強制的にページの上下などに配置されて凝ったデザインのページを作っても広告で台無しになりがちだった。しかし、xreaはなんと広告の位置を制御できる。また、<frame><iframe>要素で複数のページが同時に表示される場合には画面内に1つだけ広告があればよいというルールだった。そこでxreaはHTMLに <!--nobanner--> という呪文を入れることで特定のページの広告を消し去ることが可能! やろうと思えば全ページに<!--nobanner-->を入れて広告を完全に消すこともできた。まぁ規約違反なので見つかり次第アカウント停止されるのだが。 こういった柔軟な機能がxreaの魅力だったのかとわかったときは謎の嬉しさがあった。

時は過ぎて令和の時代、いまはNetlifyやGitHub Pages等のサービスを使えば無料で一切広告のないページが速攻で作れてしまう。 が…いまどき個人でホームページを立てるぜ!という流行りはなく、ブログやSNSのアカウントで十分では?という空気で寂しさがある。 実はそんな今になってもxreaはまだサービスが続いている。残念ながら閉鎖してデータごと失われたレンタルサーバーも多いが、今でも残っているところもある。 レンタルサーバー戦国時代に作られたホームページたちは平成の、ゼロ年代の文化の記録として残り続けてほしいものである。

脚注

  1. 貴重なサーバー資源を倉庫にされたらアクセスも来ないし広告もリーチしないのでだいたい規約で禁止されていた。

  2. ブラウザ側にポップアップを阻止する機能が付いてこういうタイプの広告は消えたかのように思われたのだがスマホの時代になって浮かび上がってくる巨大広告などが見られ時代は繰り返すのか…と悲しい気持ちになった。