自動販売機を求めて現実世界を彷徨う
少し前、アニメ『【推しの子】』とダイドードリンコのコラボキャンペーンが始まった。 全国のダイドーの自販機に推しの子のパネルがつけられ、QRコードでキャンペーンに応募できるというもので、 特筆すべきはそのパネルに推しの子の萌えキャラクター有馬かなちゃんがプリントされていたことだ。かわいい。
そんなわけで、この萌え〜な自販機を探して写真をUPする運動がSNSの一部で流行った。 気がつけば自分もダイドーの自販機を求めて外に繰り出していた。しかし、徒歩圏内のダイドー自販機を4箇所まわったのだが有馬かなちゃんはいなかった。夏も近づき湿った空気の中、30分ほど歩き回って成果なし。一体私は何をしているんだ…と肩を落とした。
でも、それをSNSで言ってたら周りの人が「〇〇(地名)には萌え自販機ありましたよ」と教えてくれた。 遠すぎる!ってところもあったが、萌え自販機の力でコミュニケーションが活性化した感じがなんだか心地よかった。 得た情報より、東京都内に出ればたくさんありそうだったので映画を見に行くついでに探してみたらあっさりと有馬かなちゃんに出会えた。嬉しすぎて(SNSで)叫んだ。
その後、推しの子のアニメも終わって落ち着いたかと思いきや、今度は自販機に転生するアニメが始まった。 人間が自販機に転生するという設定だけでもインパクトがあるのだが、アニメ本編も出オチに終わらず 多彩なタイプの自販機を異世界で活用していく様子が描かれていて面白い。このアニメを見た後になんとなく散歩に出ると(あっ!ハッコン!)と自販機を見つける度になんだか嬉しい気持ちになった。自販機…日本で生まれ育ったならもう昔から日常の風景の一部として溶け込んでいて普段意識することもない。そんな自販機も、異世界自販機を見た後ならなんだか輝いてみえた。そうか、異世界の人からしたら自販機との初対面ってこれぐらい心躍る体験なんだと気づいた。
こうしてこの1ヶ月ほど、何かと自販機を探し求めては感動する日々が連続的に起こった。 日常に溶け込んだはずの自販機に対して少しの情報が加わっただけで、日常の中に非日常的な体験を作り出せる。 一昔前、ポケモンGoが流行ったときにゲーム内のイベント目当てで色々な場所に集まる人たちを見て、ゲームのためにそこまで行動するってよくやるなぁ…と思っていたものだが、自販機で同じことをしている自分がいた。今更になって(あぁ、そういうことか)と腑に落ちた。 アニメオタク……に限らず、人間の行動変容って案外そういうものだったりする。何気なく見ている風景の中にそっと差し込まれる萌えパネルひとつでも、あるいは直前に見たアニメのエピソードひとつでも、ある意味では異世界のような体験をもたらす。
そして本日、お昼ごはんを探しに最寄りの駅前まで歩いていたら以前いなかったはずの自販機に有馬かなちゃんがいた。かわいい。