情報にも健康を––『アテンション・エコノミーのジレンマ』を読んだ
『アテンション・エコノミーのジレンマ 〈関心〉を奪い合う世界に未来はあるか』 を読んだ。
現代のSNSでは、アルゴリズムが提案するコンテンツに包囲され思想が先鋭化したり、刺激的な情報に注意を奪われ続けるといった問題がある。私たちは無料でサービスを使っているようで実は「関心」を企業に払い続けている。それを「アテンション・エコノミー」と呼ぶ。本書はこういった問題を専門家との対談を通して整理し、より良い世界のあり方を考える一冊だ。
専門家が語ると言うとなんだか難しそうに思えるが、本書は身近な例を挙げてくれていて(これSNSやってると思い当たりありすぎるな……)と頷きながら読み進められる。たとえば、食べものには食品表示法があり、食品会社は何が入っているのかを表示する義務がある。しかし、情報についてはそういった法が存在しない……、私たちは何の情報を食べさせられているのかわからない。情報の偏食を防ぎ、バランスよく情報を取り、「情報的健康」という考え方を打ち出した、という話が出てきて面白い。エックス、TikTok、週刊文春、ヤフーのコメント欄、スマートニュース等実在するメディア・プラットフォームをもとに解説されるので想像もしやすい。
そして、私たちが日々SNSを見ていて(これって仕組みからして最悪だと思うんだが、時代の流れでどうしようもないんだろうな)と感じるものについて、専門家たちが上手く言語化、整理をして改善に向けた議論をしているんだとわかって感動があった。EU諸国が情報や言論に介入したがる背景とかも全然知らなかったのでへぇ〜となった。
残念ながら現時点では完璧な解決法はないし、この本にも正解は記されていない。インターネットという場が発端ではあるが、突き詰めると民主主義の在り方にまで及ぶテーマであり、容易に答えが出るものではないからだ。それでも本書では民主主義や憲法、自由とは何か––まで踏み込んで話しており流石ではあるのだが。
かくいう私もこんな記事を書いておきながらエックスのおすすめタブを毎日シュポシュポ更新しては深く考えずに「いいね」を押す日々を過ごしており、反射的な快楽を断ち切れていない。 しかし、こんな現状はよくないと自覚するだけでも、何も知らずに溺れるよりはマシだろう。加えて、多少面倒でも他の選択肢もあるとを知っているかどうかは大きな違いを生む。 アテンション・エコノミーを取り巻く問題へ立ち向かうのは専門家や政治家に限らない。私たちにもできることはあるように思う。 このブログでいうと、持続可能なインターネット、遅いエロ同人ゲーム、コンテンツの供給過多と幸福–––いずれも少なからずこの問題と地続きだ。
本書では容赦なく人間の弱さを突きつけてくる。アルゴリズムによって関心をハックされている現実は否定しがたく、 私たちが自分の意思で選んだと思っていた判断さえ実は誘導されていた可能性まで示される。そこに生成AIが加わって状況はさらに深刻だ。 この先に待つのはアテンション・エコノミーの中で増幅された短絡的な快楽に溺れて自律性を失っていく人類だろうか? あるいは、増幅された増悪により、人間が人間を嫌いになる暗い未来なのだろうか? いやしかし、私たち理性的にこの問題を認識し、対峙することもできるはずだと本書は語る。人間の力を信じよう。