AIイラストが怖いか?
私はアマチュア絵描きであり、同時にソフトウェア開発者でもある。 以前から二次絵と機械学習についての記事、海外の転載サイトによるタグ付け、そして(爆発的に広まる前の)AIイラストについて書いてきた。
そして2023年。AIイラストが急速に広まりあちこちで揉め事が発生するようになってしまった。普段関わりのない騒ぎは見ないようにしているのだが、AIイラストは訳が違う。デジタルイラストとソフトウェア開発に片足ずつ突っ込んでいる立場としては何かを物申したい気持ちと、自身にどのような影響があるのか?という疑問が湧いてきた。 議論のテーマのひとつとして「AIイラストが人間の絵描きのやる気や仕事を奪うか」が挙げられる。より感情的に言うと「AIイラストが怖いか?」という問いだ。
いきなり結論を言ってしまうが、(現時点の)AIイラストは怖くない。絵を描くモチベーションも奪われていない。 確かに画力……一見して美麗に、リアルに見せる技術という意味での画力は完敗だ。私が練習して培った約6年分の技術は数秒で生成されるイラストに勝てない。
それなのになぜ怖くないと言い切れるのか、なぜ絵を描くのかという記事に答えはある。 記事の通り私が絵を続けるモチベーションは「新しいことを知るのは楽しい」である。AIで生成されたイラスト単体は新しいことを知る楽しみを奪うことはできない。むしろ上手く道具として使うことで思わぬ発想に出会える可能性すらある。
そしてもうひとつ、お絵かき練習会の存在がある。 このようなイラスト練習コミュニティから生み出される(家族や企業に依存しない)ゆるやかな集団帰属、コミュニケーション、みんなでものを作る楽しさはAIイラストでは代替できない。 したがって自分より優れた画力のAIイラストが現れたところで私の絵を描く意義をまったく阻害しない。 AIイラストは怖くない。
ここまではアマチュア絵描きとしての立場での話だ。 ではソフトウェア開発者としての立場だとどうか?
イラストに限らず新しいことを知るのは楽しい。ソフトウェア開発においても同じだ。 ソフトウェアといっても私はAI(Machine Learning)の専門ではない。よってAIイラストを構成する技術については知らないことだらけ。 逆に言うとイラストが出てくる理論がコンピューターの範疇で説明可能なんて凄すぎない!?勉強しがいがありそう!とわくわくした。
これだけ話題になると解説資料もたくさんある。たとえば以下の動画は日本語でアニメーション付きの解説でとっつきやすい。
とっつきやすい……が、正直詳細はよくわかってない! とにかく重要なのは機械学習の基礎であるNN(ニューラル・ネットワーク)であり、大量の教師データがあれば逆方向の推論ができるという部分ではないかと思う(間違ってたらすみません)。 確かに可能なのか?わかるような、わからないような……。
一方的に講義を聞いてもいまいちピンとこないのはよくあることで、 こういう場合は実際に手を動かしてstep-by-stepで理解するとよい。 というわけで噂のSD (Stable Diffusion)を自前のPCで動かしてみた。
SDの生成にはStepsというカウントがあり、これが増えるほどノイズ除去のプロセスが繰り返されるとのことだ。ではStepsを1から少しずつ上げていくと「AIがどのように絵を描くか」が見えて面白そうだと思い試した。
ほぉ・・
へぇ・・・
は・・・・?
いつの間にか萌え絵らしきものが浮かび上がっている。 1ラフ2ラフは?アタリは取らないの? AIの頭の中どうなってるの!? そのニューラル・ネットワークの……重み付けってやつで……数学的行列から……こんなに萌え〜な絵を描いてるのかい?
………。 AIイラストは怖くないと言ったのだが 自分の絵描きとしての意義、楽しさを脅かすかという観点で見れば怖くないという意味だった。 別の観点、つまり技術者としてこれを目の当たりにすると怖くなった。 萌え絵を描くとき、こんな描き方をする人間はまずいないだろう。
コンピュータ上に展開されるデータ構造やアルゴリズムは解説を見るとなるほどねと理解できることが多かったが、Machine Learningはどうもそれがなくて怖い。 ただの数値、重み付けの差、それが大規模化するとこんなものが生み出せるのかと、直感的に納得しづらいところがある。 何年も前からあった技術だが、長年の趣味として修練を積んだ領域でこんなものを見せられると途端に怖くなる。だからAIイラストの話題に対して反射的に拒絶を示す人がいるのもわからなくもない。
しかし、AIイラストに対する感想がポジティブであれネガティブであれ 反射的に意見を拡散したり、ネットバトルを始めようとしてしまうなら少し立ち止まって考えてほしい。 自分の頭で考えず信じたい情報を拡声するだけの行動はStable Diffusionのロジックよりも短絡的だ。 まぁ、この記事をここまで読んでいる方ならその心配はないだろうけど…。